一般社団法人 日本褥瘡学会

用語集

日本褥瘡学会で使用する用語の定義・解説

ここに挙げる用語は、下記を五十音順に再編集したものである。

あ行

圧縮応力compressive stress

外力によって圧縮される方向に働く応力である。

医療関連機器褥瘡Medical Device Related Pressure Ulcer: MDRPU, Medical Device Related Pressure Injury: MDRPI

医療関連機器による圧迫で生じる皮膚ないし下床の組織損傷であり、厳密には従来の褥瘡すなわち自重関連褥瘡(self-load related pressure ulcer)と区別されるが、ともに圧迫創傷であり広い意味では褥瘡の範疇に属する。なお、本邦の定義では尿道、消化管、気道等の粘膜に発生する創傷は含めない。
日本褥瘡学会では、2011年に「医療関連機器圧迫創傷」に関する指針の策定をおこなった。
*以前は「医療関連機器圧迫創傷」という名称であったが、2023年から変更となった。*

いわゆる"ラップ療法"so-called"wrap therapy"

非医療機器の非粘着性プラスチックシート(たとえば,食品包装用ラップなど)を用い,体表の創傷を被覆する処置を総称する。

陰圧閉鎖療法negative pressure therapy

物理療法の一法である。創部を閉鎖環境に保ち,原則的に125 mmHg から150 mmHg の陰圧になるように吸引する。 細菌や細菌から放出される外毒素を直接排出する作用と,肉芽組織の血管新生作用や浮腫を除去する作用がある。

wet-to-wet ドレッシング法(生食ガーゼドレッシング法)wet-to-wet dressing

生理食塩水で適度に湿らせたガーゼを創に充填し,ガーゼが乾燥する前に交換して,創面の湿潤環境を維持する方法である。閉塞性ドレッシング材が普及する以前より行われていた。

wet-to-dry ドレッシング法wet-to-dry dressing

生理食塩水で適度に湿らせたガーゼを創に充填し,さらにその上を乾ガーゼで覆い,湿ったガーゼが乾燥したら取り除く方法である。ガーゼが乾燥する過程で細菌や壊死組織を付着させ,これを1日に2~3回行うことによって,デブリードマン効果を期待する。感染,壊死などを伴った開放創に適応される。

栄養評価nutritional assessment

栄養評価(栄養アセスメント)とは,栄養状態を主観的あるいは客観的に把握し,その程度を判定することである。 栄養評価の方法には,(1)主観的な評価法(主観的包括的評価: subjective global assesment,SGA など)と,(2)客観的な評価法がある。 客観的な評価法は栄養指標(nutritional index)といわれる各種身体計測値や血液生化学的検査値などが用いられており,それら指標のもつ特性から,静的栄養指標,動的栄養指標,総合的栄養指標などに分類されている。

壊死組織necrotic tissue

壊死は不可逆的損傷による細胞または組織の死をさす。 褥瘡においては血流障害による虚血によって生じる。皮膚に比して脂肪織や筋肉は虚血に対する耐性が低く,壊死に陥りやすい。 壊死組織は水分含有量の程度により色調や硬さが異なる。乾燥した硬い壊死組織はエスカー(eschar)と呼ばれる。 水分を含んだ軟らかい黄色調の壊死組織はスラフ(slough)と呼ばれる。

壊死組織除去/デブリードマンdebridement

死滅した組織,成長因子などの創傷治癒促進因子の刺激に応答しなくなった老化した細胞,異物,およびこれらにしばしば伴う細菌感染巣を除去して創を清浄化する治療行為。 (1)閉塞性ドレッシングを用いて自己融解作用を利用する方法, (2)機械的方法(wet to dryドレッシング法,高圧洗浄,水治療法,超音波洗浄など), (3)蛋白分解酵素による方法, (4)外科的方法, (5)ウジによる生物学的方法などがある。

NST(栄養サポートチーム)nutrition support team

日本栄養療法推進協議会(Japan Council Nutritional Therapy : JCNT)では, 栄養管理を症例個々や各疾患治療に応じて適切に実施することを栄養サポート(nutrition support)といい, これを医師,看護師,薬剤師,管理栄養士,臨床検査技師などの多職種で実践する集団(チーム)をNST(Nutrition Support Team :栄養サポートチーム)とすると定義している。

NPUAP 分類NPUAP pressure ulcer staging system

褥瘡の深達度を表す分類の一つであり, 米国褥瘡諮問委員会( National Pressure Ulcer Advisory Panel ; NPUAP)が1989 年に提唱したステージングシステムである。 従来はステージI,II,III,IVに分類されてきた。 しかし,近年は皮膚表面の損傷がなくとも深部ですでに損傷が起こっていることがあるという考え方から,deep tissue injury(DTI)という病態が追加された。 これらのことから,2007 年のNPUAP新分類では「深部損傷褥瘡疑い」((suspected)deep tissue injury),ステージI,II,III,IV, さらに褥瘡の深達度IIIかIVか判断できない場合の「判定不能」(Unstageable)の6病期とした。

円座donut-shaped cushion

体圧を低減する目的で,踵骨部,仙骨部,尾骨部などによく使われてきたクッションの一種である。 形状がドーナツ型で,穴の開いた部分では体圧は軽減されるが,周辺部には体圧がかかり,ずれ力も強く働くために,褥瘡の予防・治療には効果が低い。

炎症inflammation

生体に侵襲的な刺激が加わったときに生じる局所的,時に全身的反応で,侵襲刺激の排除と傷害された組織の修復にかかわる一連の生体防御反応である。 古来より発赤,熱感,腫脹,疼痛は炎症の4主徴とされ,さらに機能障害を加えた5主徴が臨床的症状である。 褥瘡においては組織に阻血性の変化が生じた際,変性組織の修復あるいは排除,組織再生という創傷治癒過程が炎症そのものである。 また,経過中の細菌感染によっても炎症が惹起される。

応力stress

物体に外力が働いている場合に,内部に生じる単位面積あたりの力(単位はPa :パスカル)である。 発生する方向によって,圧縮応力,引張応力,剪(せん)断応力がある。 複雑な人体組織に関しては,単純な材料力学のモデルでは解析するのはむずかしく,有限要素法モデルなどでの解析が必要である。

温熱療法thermotherapy

生体の組織温を加温することにより,局所および全身に生理的効果をもたらす療法である。 輻射熱様式(赤外線療法など)や伝導熱様式(水治療法,ホットパック療法,パラフィン療法など)に比較し, 変換熱(極超短波療法,超音波療法など)様式の温熱療法は深達性の高い治療である。 標的組織や範囲を考慮して,最も効果的な温熱手段を選択する。この療法は循環改善,疼痛の緩和,痙縮筋の抑制,鎮静作用などの効果がある。

か行

潰瘍ulcer

瘢痕治癒により組織の連続性のみが回復する上皮およびその下床組織を含む欠損である。 皮膚では真皮全層,あるいは皮下組織にも達する深い欠損を潰瘍と呼ぶ。

外用薬topical agent

体表面に付着させて局所的に治療効果を得る薬剤である。有効成分である主剤と,それを保持し体表面から吸収させる基剤からなる。主剤として,副腎皮質ステロイド薬,非ステロイド系消炎鎮痛薬,免疫抑制薬,抗菌薬,皮膚潰瘍治療薬,止痒薬,保湿薬などがある。基剤の種類に応じて油脂性軟膏,乳剤性軟膏(クリーム),ローション剤,テープ剤,粉末剤などの剤型がある。外用法には,塗布,貼付,重層法,密封包帯法(occlusive dressing technique;ODT),噴霧などがある。

荷重load

物に作用する外力をいう。多くの場合は,身体の質量に重力加速度を乗じた力,すなわち体重を示すことが多い。 下向きに働く力の意味で「下重」といった明らかに誤用のものは当然として,踵骨部に荷重がかかるという接触圧と混同した誤用もある。 また,おもりを加えて重さを変える「加重」や,決められた値より大きい負担をかける「過重」などの同音異義語にも注意が必要である。

痂皮crust, scab

漿液,膿汁,壊死組織などが乾燥して形成される硬い構造物。 血液の乾固したものを血痂という。皮膚欠損創では創面が乾燥するため痂皮が形成されやすい。

関節拘縮articular contracture

関節構成体軟部組織の損傷後の瘢痕癒着や不動による廃用性変化の1つで,関節包,靱帯などを含む軟部組織が短縮し,関節可動域に制限がある状態である。 長期間の固定などにより,筋や皮膚などに原因がある場合は短縮(tightness)とよび,伸張運動により改善する。 関節包内の骨・軟骨に原因があり,関節機能がない場合は強直(ankylosis)とよび区別され,伸張運動の効果は認められない。

感染infection

感染は,病原微生物が身体内に侵入して増殖し,発赤,腫脹,熱感や疼痛などの炎症症状を呈するようになることをいう。 一定以下の細菌増殖で,明らかな臨床症状を伴わない場合を定着(colonization)という。感染が局所から全身に及ぶと敗血症や菌血症を惹起する。

危険因子risk factor

褥瘡発生における危険因子は,患者がもつ個体要因と患者周囲の環境・ケア要因の2つに分けられる。 個体要因は,厚生労働省の「褥瘡対策に関する診療計画書」(基本診療料の施設基準及びその提出に関する手続きの取り扱いについて, 平成14 年3月8日保医発第0308002 号)では, (1)基本的動作能力, (2)病的骨突出, (3)関節拘縮, (4)栄養状態低下, (5)皮膚湿潤, (6)浮腫の6項目からなり, これらによって患者個人がもつ褥瘡発生危険度(発生しやすさ)を評価する。また,体圧分散用具やスキンケアなどは環境・ケア要因である。

喫食率eating rate

実際に食事を摂取した割合である。一般的な算出方法は、喫食率(%)=(提供された食事量-残食量)/提供された食事量×100である(食事量の単位はg)。平均喫食率75%以下を食事摂取状況が不良と評価する。

基本的動作能力ability of basic activities

「褥瘡対策に関する診療計画書」(基本診療料の施設基準及びその提出に関する手続きの取り扱いについて, 平成14 年3月8日保医発第0308002 号)のなかで,危険因子の評価としてあげられている6項目の1つである。 その日常生活自立度は,ベッド上で自力体位変換ができるかできないか,あるいは,車いすや椅子上で座位姿勢の保持や除圧ができるかできないかで判定する。

90 度ルールrule of 90,“90-90-90”rule

体圧分散のための基本手技の覚え方の一つである。 車いすや椅子での座位姿勢で,体圧分散とずれ予防のために股関節,膝関節,足関節のいずれの角度も90 °程度になるようにクッションなどで整えることをいう。

急性期褥瘡,慢性期褥瘡acute phase pressure ulcer, chronic phase pressure ulcer

褥瘡が発生した直後は局所病態が不安定な時期があり,これを急性期と呼ぶ。時期は発症後おおむね1~3週間である。 この間は褥瘡の状態は発赤,紫斑,浮腫,水疱,びらん,浅い潰瘍などの多彩な病態が短時間に現れることがある。 慢性期褥瘡は急性期褥瘡に引き続き,感染,炎症,循環障害などの急性期反応が消褪し,組織障害の程度が定まった状態を指す。 慢性に経過する褥瘡に急性期褥瘡が混在あるいは新生することもある。

虚血再灌流障害ischemia-reperfusion injury

虚血環境下におかれた臓器において血液の再灌流が起きた際,活性酸素種(スーパーオキシド,ヒドロキシルラジカルなど), フリーラジカル(一酸化窒素など),炎症性サイトカイン,ケミカルメディエーターなど,種々の炎症を惹起する物質が産生されたり, 白血球の活性化が起こり,微小血管を中心に血管内皮細胞傷害や微小循環障害が生じて,さらに重篤な組織障害,臓器障害を起こすことをいう。

近赤外線療法near infrared therapy

光のなかで最も生体深達性の高い波長帯である近赤外線を照射する物理療法の1つである。近赤外線は赤外線のなかで可視光線に近い760~2,500nm(ナノメーター)の波長の電磁波で,創傷治癒の促進を目的とし,局所的な血流増加や皮膚温の上昇をもたらす。

ケアアルゴリズムcare algorithm

アルゴリズムとは,ある特定の問題や課題を解決するための明確な手順であり,処理するステップを並べたものである。 ケアアルゴリズムは,患者のある特定の健康問題に関する予防や管理の手順,あるいは意思決定を示したものであり,フローチャートの形で示されることが多い。

経管栄養tube feeding

経口摂取のみで必要栄養量を満たせない場合に,チューブを用いて消化管内に栄養補給を行うことをいう。 消化管の構造や機能,経腸栄養の実施期間,誤嚥の可能性などを考慮し投与経路や器具を選択する。

経口摂取/経口栄養oral intake/oral nutrition

口から栄養摂取することである。広義には経腸栄養法に含まれる。誤嚥の可能性などを考慮し,適切な食形態を選択する。

外科的治療surgical treatment

褥瘡治療は,保存的治療と外科的治療に大別され,後者には外科処置と再建手術がある。外科処置には,壊死組織除去(デブリードマン),切開・排膿およびポケット切開術などがある。また,再建手術には,縫縮術,皮弁形成術,植皮術などがある。

減圧decompression

除圧と同様に接触圧力を下げることをいう。毛細血管の内圧とされてきた32 mmHg を基準とし, それ未満にすることを除圧,それ以上を減圧と定義していたこともあったが,現在は区別していない。

高圧酸素療法hyperbaric oxygen therapy

密閉された高気圧室に患者または患部を収容して,高圧の酸素を吸入させる療法である。 血漿や虚血病変組織への直接作用により組織の酸素分圧を上昇させ,低酸素状態の改善を図る療法である。

高カロリー輸液total parenteral nutrition(TPN)

中心静脈ルートを用いて,糖質,アミノ酸,脂質,電解質などを含む輸液を投与する維持輸液法の1つである。 一般的には10.12.5%以上の糖質を含む輸液を投与する。中心静脈栄養ともいわれる。

光線療法phototherapy

皮膚などに光線を照射し,光化学作用や温熱作用を利用した療法である。 光線には可視光線を基準にして,波長の短い紫外線では光化学反応がおもな作用で,波長の長い赤外線は温熱作用が中心となる。 そのほか,位相のそろったレーザー光があり,生体に照射することにより得られる殺菌・細胞破壊,免疫促進,循環の改善,鎮静作用,疼痛の緩和,創傷治癒の促進などの効果がある。

硬結induration

正常組織に比して硬く触れる軟部組織の塊をいう。組織損傷による出血,炎症,組織変性などによる急性期の硬結と,治癒後の硬結すなわち瘢痕とがある。 褥瘡発生初期の硬結は軟部組織損傷を示唆しており,米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel:NPUAP)は2007 年に改正された病期分類で, 外見的には表在性の褥瘡ではあるが,深部に硬結を触れる褥瘡に対し,(suspected)deep tissue injury(深部損傷褥瘡疑い)という新しい病期(stage)を設けた。

好発部位common site

ある病変が発生しやすい部位(体部,臓器)をいう。 褥瘡では,骨が突出しており,かつ体重がかかりやすい仙骨部,踵骨部,大転子部などが好発部位となる。

高齢older or elderly

世界保健機構(WHO)によると,65 歳以上を高齢者(older),65-74 歳までを前期高齢者(early-stage elderly), 75 歳以上を後期高齢者(latter-stage elderly)という。一般に65 歳以上の人口が総人口に占める割合を高齢化率といい, その値が7%を超える場合を高齢化社会,14%を超える場合を高齢社会,21%を超える場合を超高齢社会とよぶ。 わが国は1970年に高齢化社会に,1994 年には高齢社会となり,2007 年には超高齢社会となった。

さ行

サイトカインcytokine

細胞が産生・放出する分子量30kD 以下の小さな可溶性蛋白あるいは糖蛋白であり, 標的細胞表面の受容体に結合して細胞の分化,増殖,活性化を制御することで,炎症,免疫応答,細胞増殖など生体の生理機能を調節する液性因子を総称してサイトカインと呼ぶ。 同じサイトカインでも多様な細胞にそれぞれ異なる作用をもたらす一方,異なるサイトカインでもある細胞には同じ作用をもたらす。 通常,産生された局所で作用し,近傍の細胞に作用するパラクリン,あるいは産生した細胞自身に作用するオートクリンの作用様式をとる。 構造の違いからインターロイキン,インターフェロン,TNF(腫瘍壊死因子)ファミリー,ケモカインに大別される。

30 度ルールrule of 30

体圧分散のための基本手技の覚え方の一つである。 (1)大転子部,仙骨部,肩の体圧分散のために半側臥位をとる際,クッションなどを用いて身体を30 °程度傾けることで,肩や殿部の接触面積を大きくして骨突出部の圧迫を軽減できる。 (2)仰臥位でベッドの頭側を挙上する場合に,身体が下方にずれることや仙骨部の圧迫を最小限にするために,頭側挙上の角度を30 °以下に制限し,同時に頭側を挙上する前に大腿を30°程度挙上する。

自己融解autolysis

肉芽形成初期に,線維芽細胞,血管内皮細胞,表皮細胞,血球などから分泌されるプロテアーゼをはじめとする蛋白分解酵素や, 好中球,マクロファージなどの貪食細胞の作用などによって,壊死組織が融解することをいう。 自己融解を促進するためには,感染に注意しながら創傷の湿潤環境を維持することが重要である。

失禁incontinence

排泄物(尿,便,屁など)が不随意に漏れることをいう。

湿潤環境moist environment

皮膚欠損創を覆うことにより,創の乾燥を防ぎ,創傷治癒に不可欠な細胞やサイトカインなどを含んだ滲出液が適切に維持された状態をいう。

湿潤環境下療法moist wound healing

創面を湿潤した環境に保持する方法。滲出液に含まれる多核白血球,マクロファージ,酵素,細胞増殖因子などを創面に保持する。 自己融解を促進して壊死組織除去に有効であり,また細胞遊走を妨げない環境でもある。

上皮化/上皮形成epithelization

欠損した皮膚や粘膜が治癒過程において上皮すなわち表皮や粘膜上皮で再度被覆されること。 皮膚では欠損部周囲表皮や皮膚付属器から表皮の再生が起こる(再生治癒)。 しかし,付属器の残存しない深い皮膚欠損では,創面が肉芽組織で置換されたあとに周囲から表皮が伸張してくる(瘢痕治癒)。

褥瘡重症度分類critical grade of pressure ulcer

褥瘡の状態を重症度で分類したものである。 日本褥瘡学会では 深さ(Depth), 滲出液(Exudate), 大きさ(Size), 炎症・感染(Inflammation/Infection), 肉芽組織(Granulation tissue), 壊死組織(Necrotic tissue), ポケット(Pocket) の7項目から評価するDESIGNツールを開発した。その他の分類にはSheaの分類, IAET( International Association for Enterostomal Therapy:国際ET 協会)の分類, 米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel:NPUAP)のステージ分類, ヨーロッパ褥瘡諮問委員会(European Pressure Ulcer Advisory Panel:EPUAP)のグレード分類などがある。

褥瘡推定発生率presumed incidence rate of pressure ulcers

(調査日に褥瘡を保有する患者数-入院時すでに褥瘡保有が記録されていた患者数)/調査日の施設入院患者数× 100(%)

注1
調査日の施設入院患者数:調査日の入退院または入退院予定者は含めない。 調査日に入院または入院予定患者は含めない。調査日に退院または退院予定患者は含める。
注2
1名患者が褥瘡を複数部位有していても,患者数は1名として数える。
注3
入院時既に褥瘡を保有していた患者であっても,新たに入院中に褥瘡が発生した場合は,院内褥瘡発生者として取り扱い,褥瘡推定発生率を算出する。

褥瘡内褥瘡decubitus in decubitus(D in D)

ステージⅡ以上の褥瘡の経過中に,新たな褥瘡発生因子が加わり,既存の褥瘡内に新たに形成された組織損傷をいう。 通常は肉芽組織の部に変色や組織欠損が認められる。ケア方法の改善が必要である。

褥瘡発生予測スケールpredicting scale for pressure ulcer

患者の褥瘡発生要因を数量化し,褥瘡発生の危険性を予測するための測定ツールである。 褥瘡発生の危険性の度合いと,発生に影響を及ぼしている要因を同定し,これらに対して適切な予防対策を講じることで褥瘡発生を減少させる目的で用いる。 褥瘡発生予測スケールを用いたリスクアセスメントは,患者の状態に応じて,定期的あるいは患者の状態が大きく変化した場合に繰り返し行われることが望ましい。 ブレーデンスケールのほか,高齢者寝たきり患者に対するOHスケール,高齢者寝たきり入院患者に対するK式スケール, 在宅高齢者に対する在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケール,小児に対するブレーデンQスケール,脊髄損傷者に対するSCIPUS スケールなどがある。

褥瘡有病率prevalence rate of pressure ulcers

調査日に褥瘡を保有する患者数/調査日の施設入院患者数× 100(%)

ある集団における,ある一時点での特定の疾病や病態を有する人の割合。分子はある一時点での有病者の数,分母がその時点での集団全体の人数である。 これは時点有病率とも呼ばれ,ある集団を,ある期間観察した時の有病率である期間有病率と区別される場合もある。

注1
調査日の施設入院患者数:調査日の入退院または入退院予定者は含めない。 調査日に入院または入院予定患者は含めない。調査日に退院または退院予定患者は含める。
注2
1名患者が褥瘡を複数部位有していても,患者数は1名として数える。

滲出液exudate

上皮が欠損した創から滲み出す組織間液。蛋白に富み,創傷治癒にかかわるさまざまな炎症細胞,サイトカイン,増殖因子などを含む。

浸軟maceration

組織,特に角質が水分を大量に吸収して白色に膨潤した状態。皮膚バリア機能が低下し,びらんや感染を生じやすい。褥瘡潰瘍の辺縁でしばしばみられる。

深部損傷褥瘡deep tissue injury(DTI)

NPUAP が2005 年に使用した用語である。表皮剥離のない褥瘡(stage Ⅰ)のうち,皮下組織より深部の組織の損傷が疑われる所見がある褥瘡をいう。 2007年に改正されたNPUAP の褥瘡ステージ分類では,(suspected)deep tissue injury(深部損傷褥瘡疑い)という新しい病期(stage)が加えられている。 また,褥瘡以外の損傷に対しては「深部組織損傷」と訳されることもある。

シーティングseating

重力の影響を配慮した身体評価により,クッションなどを活用して座位姿勢を安全・快適にする支援技術である。 特に端座位がとれない者が座位をとれるようにすることをいう。

水治療法hydrotherapy

静水圧,浮力,水中抵抗,温熱,洗浄などの物理的な作用と含有成分による化学的な作用を利用した療法である。 局所の水治療法には渦流浴,気泡浴,交代浴があり,全身浴にはハバード浴,プールがあり,温熱または寒冷効果,創傷治癒の促進,マッサージ効果や運動効果がある。

スキンケアskin care

皮膚の生理機能を良好に維持する,あるいは向上させるために行うケアの総称である。 具体的には,皮膚から刺激物,異物,感染源などを取り除く洗浄,皮膚と刺激物,異物,感染源などを遮断したり, 皮膚への光熱刺激や物理的刺激を小さくしたりする被覆,角質層の水分を保持する保湿,皮膚の浸軟を防ぐ水分の除去などをいう。

スキン-テアSkin Tear

主として高齢者などの脆弱な皮膚が摩擦・ずれによって、裂けて生じる真皮深層までの損傷。

ずれslide, shear

ずれには,対象とする物体の移動した変位量を表す“ずれ量”(長さ,単位はm)と, 対象とする物体に加わっている力を表す“ずれ力”(力,単位はN)という2つの概念がある。前者がslide,後者がshear に該当する。

背抜きsenuki

ベッドや車いすなどから一時的に離すことによって,ずれを解放する手技である。

仙骨座りsitting on sacral bone

車いすや椅子に座る場合に,脊柱を後弯させて背もたれにもたれかかると, 殿部や大腿部が前方に滑り,股関節が伸展し,仙骨に大きな体圧がかかる体位となる。 高齢者などに起こりやすい座り方で,褥瘡が生じやすくなるので適正なシーティングが必要となる。

洗浄圧washing pressure, cleansing pressure

洗浄をするときに用いられる圧力である。水圧の効果を利用して洗浄を行う場合の設定値として,褥瘡に関する分野では,psiという単位が用いられてきたが,ヤード・ポンド法によるものであり,国際単位系では,Pa(パスカル)を用いる。

洗浄washing,cleansing

液体の水圧や溶解作用を利用して,皮膚表面や創傷表面から化学的刺激物,感染源,異物などを取り除くことをいう。

洗浄液の種類によって,生理食塩水による洗浄,水道水による洗浄,これらに石鹸や洗浄剤などの界面活性剤を組み合わせて行う石鹸洗浄などと呼ばれる方法がある。 また,水量による効果を期待する方法と水圧による効果を期待する方法がある。

剪(せん)断応力shear stress

外力によって,任意の断面方向に働く応力である。

創縁wound edge

創を取り囲む表皮の最も内側を指す。盛んに表皮化が進んでいると,その境界は不鮮明になりやすい。

創傷治癒過程wound healing process

創が形成された直後からの生体反応は,炎症反応を含め,広義にはすべて治癒に向けた反応といえよう。 炎症で皮膚は発赤し,そのうち損傷皮膚の中央部が褪色するとともに,皮膚を含めた“硬い壊死組織”(エスカー; eschar)が形成される。 このエスカーは茶色から次第に黒色になり,エスカーが除去されると皮下の黄色の壊死組織が現れる。 壊死組織の融解排除と入れ替わりに赤い肉芽組織が増生し,やがて表皮化が完成すると脱色した皮膚に被われる。 この過程を,凝固期,炎症期,増殖期,再構成期などと称したり,また,褥瘡の創面の色調によって黒色期,黄色期,赤色期,白色期などと表現する簡便な方法などがある。

創傷被覆材wound dressing

創傷被覆材は,ドレッシング材(近代的な創傷被覆材)とガーゼなどの医療材料(古典的な創傷被覆材)に大別される。 前者は,湿潤環境を維持して創傷治癒に最適な環境を提供する医療材料であり,創傷の状態や滲出液の量によって使い分ける必要がある。 後者は滲出液が少ない場合,創が乾燥し湿潤環境を維持できない。 創傷を被覆することにより湿潤環境を維持して創傷治癒に最適な環境を提供する,従来のガーゼ以外の医療材料を創傷被覆材あるいはドレッシング材と呼称することもある。

増殖因子/成長因子growth factor

細胞の増殖,分化を促進する因子の総称である。ほとんどがペプチドであり,通常,産生された局所で作用し, 近傍の細胞に作用するパラクリン,あるいは産生した細胞自身に作用するオートクリンの作用様式をとる。 代表的なものとして 線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor, FGF), 表皮細胞増殖因子(epidermal growth factor, EGF), 血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor), トランスフォーミング増殖因子(transforming growth factor-α/-β,TGF-α/-β), 肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor)などがある。

創面環境調整/ウンド・ベッド・プリパレーションwound bed preparation

創傷の治癒を促進するため,創面の環境を整えること。 具体的には壊死組織の除去,細菌負荷の軽減,創部の乾燥防止,過剰な滲出液の制御,ポケットや創縁の処理を行う。

底づきbottoming out

体圧分散用具を用いても,身体表面が下の硬い支持面に接し,体圧分散が効果的に行われていない状態。 体圧分散用具の下に手の平を上にして腕を差し入れようとしたときに,体圧分散用具上にある身体に触れたり,重みが感じられる現象。

た行

体圧,接触圧interface pressure

皮膚表面と接触面との間に生じる垂直に作用する力を接触圧とよび,そのなかで重力によって生じるものを体圧という。

体圧分散pressure redistribution

臥位や座位をとる場合に,長時間,同一部位にかかる圧力を減少させることをいう。 身体と寝具や椅子などとの接触面を広くして,ある一部分の体圧を低くする方法と,高い体圧の生じる部位を経時的に移動させる方法の2つがある。

体圧分散用具pressure redistribution devices

ベッド,椅子などの支持体と接触しているときに単位体表面に受ける圧力を, 接触面積を広くすることで減少させる,もしくは,圧力が加わる場所を時間で移動させることにより,長時間,同一部位にかかる圧力を減少させるための用具。 臥位時に使用するものには特殊ベッドのほか,マットレスや布団に重ねて使用する上敷きマットレス,マットレスや布団と入れ替えて使用する交換マットレスなどがあり, 座位時には椅子や車いすに敷いて使用するクッションおよび,姿勢を整えるパッドなどがある。 体圧分散用具に用いる材質には,エア,ウォーター,ウレタンフォーム,ゲル,ゴムなどがある。

体位変換changing position

ベッド,椅子などの支持体と接触しているために体重がかかって圧迫されている身体の部位を, 身体が向いている方向,挙頭の角度,身体の格好,姿勢などを変えることによって移動させることをいう。

TIMETIME

創面環境調整(wound bed preparation)は,Schultzらによって提唱された慢性創傷に対する治療概念である。wound bed preparationにおいて,排除すべき4項目が提示され,頭文字をとってTIMEと呼んでいる。

  • ・Tissue non-viable or deficient:壊死組織・活性のない組織
  • ・Infection or inflammation:感染または炎症
  • ・Moisture imbalance:湿潤の不均衡
  • ・Edge of wound-non advancing or undermined epidermal margin:創辺縁の表皮進展不良あるいは表皮の巻き込み

これら4項目に対して治療を行うことによって,治療に反応しない慢性創傷が,治療に反応する創に変化し,治癒が始まる。

蛋白分解酵素proteolytic enzyme

蛋白質やペプチドのペプチド結合を加水分解して,ペプチドやアミノ酸を生成する酵素群である。 古くはタンパク質を基質にするものをプロテイナーゼ,合成ペプチドを基質にするものをペプチダーゼとしていた。 現在,タンパク質・ペプチド鎖の配列中央を切断するものをエンドペプチダーゼ(endopeptidease)と呼び,従来プロテイナーゼに分類されていた大半の酵素が含まれる。 一方,タンパク質・ペプチド鎖の配列末端からおよそ1.2アミノ酸残基ずつ切断するものをエキソペプチダーゼ(exopeptidase)と呼び, 従来ペプチダーゼに分類されていたものの多くが属する。 生物界に広く分布し,その生理機能は栄養蛋白質の消化,不要になった構造蛋白質の分解と再利用,機能蛋白質の活性化や不活性化,生体防御など多彩である。 褥瘡ではおもに壊死組織のコラーゲンなどの蛋白質を分解して,創を清浄化する働きがある。

超音波療法ultrasound therapy

生体に超音波(20,000 Hz 以上)を照射する療法で,連続波による温熱作用とパルス波による機械的振動作用(非温熱作用)がある。 前者は循環の改善,疼痛の緩和,筋スパズムの抑制,鎮静作用など,後者は浮腫の軽減,創傷治癒の促進,経皮薬の浸透などの効果がある。 超音波照射時には皮膚に伝播物質(超音波用ジェル)を塗布する。超音波周波数が高いほど浅層組織での吸収率が高まり,深部には低周波数の超音波を使用する。

低栄養malnutrition

低栄養とは,生体が生命活動を営むうえで必要とされるエネルギー(熱量)や各種栄養素が欠乏した状態をいう。 一般に低栄養は, (1)蛋白と熱量がともに欠乏した状態(protein energy malnutrition : PEM/marasmus), (2)熱量摂取は比較的保たれているが,蛋白欠乏が著しい状態(protein malnutrition/kwashiorkor-like syndrome) の2つに大別されているが,この2つのタイプの中間型のmarasmus-kwashiorkor型が多い。

DESIGNDESIGN

日本褥瘡学会が2002 年に公表した褥瘡状態判定スケールであり,深さ(Depth),滲出液(Exudate),大きさ(Size),炎症/感染(Inflammation/Infection),肉芽組織(Granulation tissue),壊死組織(Necrotic tissue), ポケット(Pocket) の7項目からなるアセスメントツールである。重度,軽度を大文字,小文字で表した重症度分類用と,治癒過程をモニタリングできるように数量化した経過評価用の2種類があった。

後者には2002 年版と,褥瘡経過を評価するだけではなくより正確に重症度を判定できるDESIGN-R®(2008 年改訂版,R はrating(評価,評点)の頭文字)があったが、2020年に深さの項目に深部損傷褥瘡(DTI)疑いが追加、炎症/感染の項目に臨界的定着疑いが追加され、DESIGN-R®2020と改定された。

電気刺激療法electrotherapy

経皮的に生体に電流を流すことにより,治療効果を得る療法である。 交流電流刺激は神経の興奮,筋の収縮により運動機能の改善,運動機能の代行・再建,疼痛の緩和などの効果がある。 直流微弱電流刺激では創傷治癒促進効果,イオン導入法による経皮薬の浸透などの効果がある。

電磁波療法electromagnetic wave therapy

電磁波は波長の短いほうからガンマ線,エックス線,紫外線,可視光線,赤外線,マイクロ波,電波に分けられる。ガンマ線,エックス線は電離放射線と呼ばれ,細胞障害性が特に強い。紫外線,可視光線,マイクロ波は非電離放射線で,生体成分に吸収されると化学反応や熱を生じる。電波は体組織には吸収されない。治療に用いた場合,波長に応じ放射線療法(ガンマ線,エックス線),紫外線療法,光線療法,温熱療法(赤外線,マイクロ波)と呼ばれる。種々の波長のレーザーを用いるレーザー療法も電磁波療法の1つである。

頭側挙上head-side up

仰臥位をとっている者のベッドの上半身部分を挙上すること。 その際,背部,仙骨部,尾骨部にずれ力が生じることで褥瘡が発生しやすくなるため,背抜きなどでずれを解消する必要がある。 なお,同義語としてファウラー位(Fowler position),セミファウラー位(semi-Fowler position)がある。

ドレッシングdressing

創傷を被覆する医療材料など,および,これらを用いて創を覆う行為をいう。通常,創傷治癒のための局所環境を整えたり,創傷を隠したり,除痛,感染予防などを目的とする。

な行

肉芽組織granulation tissue

組織傷害に対する修復・炎症反応によって,周囲健常部から組織欠損部に増殖・補充された結合組織であり,創の収縮・上皮化に関与する。 その名称は,肉眼的に赤みを帯びて軟らかいことに由来する。 新生血管,炎症性細胞,線維芽細胞とそれが産生する膠原線維などの基質から構成され,陳旧化するにしたがい血管や細胞が減少・消失し,代わって線維化が進行して最終的には瘢痕組織となる。 なお,良性肉芽は表面が細顆粒状で鮮紅色の外観を呈した増殖力旺盛な結合組織であり,適度な湿潤環境下にあることを示す。 一方,不良肉芽は表面が粗造で淡紅色あるいは暗赤色の外観を呈する増殖力の低下した結合組織であり,その環境には阻害因子の存在が示唆される。

日常生活自立度daily life independence level

障害老人などが日常生活をどの程度自立して行えるかを示す尺度で,介助の必要性の程度を基準として判定される。 厚生省大臣官房老人保健福祉部長通知(老健第102-2 号,平成3年)として示された判定基準ではランクJは生活自立,ランクA は準寝たきり,ランクB,ランクCは寝たきりを示している。

寝たきり状態/寝たきりbedridden state

老衰や,身体的,精神的な疾患・障害などのために,長期にわたって寝たままの状態をいう。 一般的には「障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準」(平成3年11月8日老健第102-2号,厚生省大臣官房老人保健福祉部長通知)のランクB, Cにあたる状態を指すが,疾病や障害の種類や程度,寝たままの期間については定められていない。

は行

廃用症候群disuse syndrome

無動,不動,低活動,長期の臥床などにより経過とともに引き起こされる退行性の病態,二次的な機能障害の総称であり,早期離床などにより予防可能である。 なお,退行性の病態,二次的な機能障害とは,萎縮,皮膚障害,関節拘縮,筋力低下,心血管・呼吸器機能の低下,泌尿器・消化器系の機能低下,代謝・内分泌系の低下,精神機能低下などを指す。

瘢痕治癒cicatricial healing

創傷治癒には,失われた組織,器官などが再び創られる再生治癒と,組織の連続性のみが回復する瘢痕治癒がある。 褥瘡では,前者は「浅い慢性期褥瘡(d)」の治癒過程,後者は「深い慢性期褥瘡(D)」の治癒過程に一致する。 瘢痕治癒では修復過程で欠損部分は再生することなく,壊死組織が取りのぞかれた創面に肉芽組織が形成され,それが瘢痕組織に変化して治癒にいたる。

バイオフィルムbiofilm

細菌が創面や体表面などに定着すると,菌体やそれから分泌される菌体外多糖体などにより菌体表面を覆う膜が形成され,そのなかに細菌のコミュニティーがつくられることがある。この膜をバイオフィルムという。緑膿菌や黄色ブドウ球菌などが代表的なバイオフィルム産生菌であり,食菌作用や抗菌学療法に強い抵抗性を示すことが知られている。

非接触型常温療法noncontact normothermic wound therapy

創の血行改善などを目的に,Warm Up®治療器により,1日数回,発熱体を接触させずに創の温度を38℃に維持する治療法である。褥瘡などに効果があるとされていたが,現在は使用されていない。

引張応力tensile stress

外力によって引っ張られる方向に働く応力である。

びらんerosion

瘢痕を残さず再生治癒することができる上皮もしくはその下床組織を含む欠損である。 皮膚では表皮あるいは真皮の浅い層(毛包の一部は残存する)までの欠損をびらんと呼ぶ。

皮膚・排泄ケア認定看護師Certified Nurse in Wound, Ostomy and Continence Nursing

創傷・オストミー・失禁看護分野において習熟した看護技術と知識を用い, 実践・指導・相談の3つの役割を果たすことにより水準の高い看護実践および看護ケアの広がりと質の向上を図ることに貢献する看護師。 皮膚・排泄ケア認定看護師は日本国の保健師,助産師および看護師のいずれかの免許を有し, 実務経験5年以上のうち3年以上は創傷・オストミー・失禁看護分野の経験をもち,日本看護協会認定審査に合格したものである。

病的骨突出morbid bony prominence

OH スケールにおける4つの危険因子の一つで,殿筋の廃用萎縮や長期低栄養状態による殿部皮下脂肪の減少によって仙骨が相対的に突出した状態をいう。 仙骨部と殿部軟部組織の高低差(突出度)によって決定される。大転子部,腸骨稜などの解剖学的な骨突出(bony prominence)と区別される。

浮腫edema

皮膚,粘膜,皮下組織,内臓などの間質に組織間液が過剰に貯留した状態。皮膚では圧迫すると指圧痕が残る。 炎症,低蛋白血症により血漿が血管外へ移行して組織間液が増加することや,リンパ管の閉塞や心不全などによる循環不全などにより組織間液の還流が抑制されて生じる。 褥瘡発生危険因子の一つである。

物理療法physical agents

生体に物理的刺激手段を用いる療法である。物理的手段には,熱,水,光線,極超短波,電気,超音波,振動,圧,牽引などの物理的エネルギーがある。 物理療法には温熱療法,寒冷療法,水治療法,光線療法,極超短波療法,電気刺激療法,超音波療法,陰圧閉鎖療法,高圧酸素療法,牽引療法などがある。 疼痛の緩和,創傷の治癒促進,筋・靭帯などの組織の弾性促進などを目的に物理療法が行われる。 なお,physical therapy は理学療法一般を示す用語として使用され,混同を避けるため物理療法には治療手段を示すphysical agentsを慣用的に使用している。

閉塞性ドレッシング/滲出液保持性ドレッシングocclusive dressing/moisture-retentive dressing

創を乾燥させないで湿潤環境下療法(moist wound healing)を期待する被覆法すべてを閉塞性ドレッシングと呼称しており, 従来のガーゼドレッシング以外の近代的な創傷被覆材を用いたドレッシングの総称である。

ポケットundermining, tunneling

皮膚欠損部より広い創腔をポケットと称する。ポケットを覆う体壁を被壁または被蓋と呼ぶ。

ポジショニングpositioning

運動機能障害を有する者に,クッションなどを活用して身体各部の相対的な位置関係を設定し,目的に適した姿勢(体位)を安全で快適に保持することをいう。

発赤redness

紅斑(erythema)あるいは初期の紫斑(purpura)によって生じる皮表の赤みを発赤と総称している。 紅斑とは,真皮の毛細血管拡張もしくは充血によってもたらされる皮表の赤みを指す発疹名である。 一方,紫斑は真皮内の出血(赤血球の血管外漏出)により生じる皮表の色調変化である。 このように,紅斑と紫斑は明瞭に区別できるものと思われがちだが,その間にはグレイゾーンが存在する(図)。 すなわち,紫斑はその名のごとく時間が経つにつれて紫色となるが,出血直後には赤くみえるものの硝子圧では消褪しない。 このような場合は暫定的に「持続する発赤」と称し,経過を慎重に観察する必要がある。

図 発赤と紅斑,紫斑との関係

ま行

摩擦/摩擦力friction

対象の表面に発生している外力である。単位はN である。力が加わっている荷重面と平行した方向に生じる。
着目している部分が静止している場合と,移動している場合とで,摩擦係数には違いがあり,静止時の係数を静摩擦係数,移動時の係数を動摩擦係数という。

慢性皮膚潰瘍chronic skin ulcer, chronic wound

褥瘡,下腿静脈瘤,糖尿病など,血流障害,感染,低栄養などの創傷治癒を遅延させる因子をもった人に生じた難治性皮膚潰瘍。

持ち込み褥瘡carry-in pressure ulcer

入院/入所/帰宅した患者がもっている既存の褥瘡をいう。

ら行

臨界的定着critical colonization

創部の微生物学的環境を,これまでの無菌あるいは有菌という捉え方から,両者を連続的に捉えるのが主流となっている(bacterial balance の概念)。 すなわち, 創部の有菌状態を汚染(contamination), 定着(colonization), 感染(infection) というように連続的に捉え,その菌の創部への負担(bacterial burden)と生体側の抵抗力のバランスにより感染が生じるとする考え方である。 臨界的定着はその中の定着と感染の間に位置し,両者のバランスにより定着よりも細菌数が多くなり感染へと移行しかけた状態を指す。

レーザーlaser

レーザーは,light amplification by stimulated emission of radiation の頭文字を組み合わせた合成語である。レーザー素子内での自然光の誘導放出により増幅され,導出されたほぼ同位相の光線で,単色性,指向性,高輝度という特性をもっている。褥瘡治療においては,低反応レベルレーザーが肉芽形成促進などを目的に使用され,高反応レベルレーザーはレーザーメスなどとして利用される。